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旭川地方裁判所 昭和23年(行)9号 判決

主文

被告が昭和二十三年六月二十一日北海道上川郡東旭川村字旭正百二十九番地ノ二田二町五反歩同字百五十八番地田二町二反歩に対して樹てた農地買収計画を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め其請求原因として上川郡東旭川村字旭正百二十九番地ノ二田二町五反歩及同字百五十八番地田二町二反歩は孰れも原告の所有する農地であつたが昭和十四年春頃訴外早瀬ハル外一名に貸与すると共に原告一家は札幌市に移住したので爾来右訴外者等が該土地を耕作して来たのである而して原告は立教大学の学生であり勉学中であつたが昭和二十年春頃札幌市を引揚げ東旭川村に住所を定めることとし其実行を母艶子に一任し同人は原告所有家屋を処分する等引揚の準備を完了した上同年九月二十日頃東旭川村に移住し小作人早瀬ハルの要望に依り一先づ艶子の実家である同村字上兵村井原彦太郎方に落附き右早瀬ハルから其家屋一部の明渡を受け同年十二月初頃同村字旭正の現住所に移転し翌昭和二十一年以降水田一町歩位を耕作して農業を営んで来たものである従つて原告は昭和二十年十一月二十三日現在に於ては東旭川村に住所を有し単に勉学の為一時居住しなかつたに過ぎないのであるに拘らず被告に於ては昭和二十三年六月二十一日原告が昭和二十年十一月二十三日現在に於て東旭川村に住所を有しない所謂不在地主であつたとの理由で前記原告の所有地に対し自作農創設特別措置法に依る買収計画を樹て其旨公告すると共に翌二十二日原告に通知して来たのである然し乍ら前記の通り原告は昭和二十年十一月二十三日当時東旭川村に住所を有して居たのであるから同日現在に於て原告を東旭川村では不在地主と謂うことが出来ないこと勿論である然うであるに拘らず被告が原告を所謂不在地主であると看做したのは思うに原告の母艶子が札幌市を引揚げ東旭川村に転入するに際し其長女敏子(原告の姉)が当時海軍施設部に勤務し残務整理の関係上辞職することを許されず猶数ケ月残留しなければならなかつた為主要食糧の遅配欠配相次いで居つた当時の状況に鑑み長女敏子の食料を確保する為艶子自身の食糧をも併せ同人に取得せしめ様として故意に転入手続を遅延し同年十二月初め頃始めて之が手続を完了したのに基因するのであるが当時原告が東旭川村に住所を有したか否かは原告が同村に居住するの意思を以て同村を其生活関係の中心として居たか否かの事実関係に依つて決すべきもので転入手続を了したか否かは右事実関係に基いて住所を定めるに当つて一ツの参考資料たるに過ぎないものであるに拘らず被告が原告一家が昭和二十年十一月二十三日当時其転入手続を為して居なかつたことの一事を以て原告を目して東旭川村に於ける不在地主であるとしたのは不当であり原告が所謂不在地主であるとの理由で原告所有の本件農地に対し買収計画を樹てたのは不法な処分であつて該処分は取消しを免れないものである仍て原告は被告に対し前記原告所有農地に対する買収計画の取消を求める為本訴に及んだ次第であると陳述し尚原告が昭和二十三年七月十五日施行せられた行政事件訴訟特例法に依り本件訴を提起するに先立ち前記買収計画に対し異議の申立等不服を申立て之に対する決定又は裁決を経べきであつたのに拘らず此等の手続を経ずして本件訴を提起したのは当時通信交通等混乱して居つた為該特例法を掲載した官報其他刊行物が旭川地方に到着するのは一月以上後であり早急に該刊行物を入手する途が全く無かつたので行政事件訴訟特例法に則り提起すべき訴の前提要件として訴願等不服の申立を為し之に対する決定又は裁決を経ることが必要である事実を知ることが出来なかつたので同法施行前と同様夫等の手続を経るを要せずと考えたからであつて該法規を知つた後は既に異議申立期間を経過し之が申立をするに由無き状態であつたのであるから原告が訴願等不服の申立を為し之に対する決定又は裁決を経ずして本件訴を提起するに付いては正当な事由が有るものと謂うことが出来るのであつて本件訴は適法であると述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する旨の判決を求め原告主張事実中原告主張の土地が原告所有の農地であり原告が該土地を其主張の通り訴外早瀬ハル外一名に貸与し同人等が原告主張の通り耕作し来たものである事実原告が札幌市に居住し来つたものである事実並被告が原告主張日時原告が昭和二十年十一月二十三日現在に於て東旭川村に住所を有しなかつたとの理由で原告主張の農地に対し自作農創設特別措置法に依り買収計画を立て之を公告すると共に原告に其旨通知した事実は之を認めるが原告が昭和二十年十一月二十三日現在に於て東旭川村に住所を有して居つたとの事実及原告が本件訴を提起するに付其前提たる訴願等不服の申立を為し之に対する決定又は裁決等を経ずして之を為すに付正当な理由あつたものであるとの事実は否認す其の余の事実は不知であると答弁し尚原告の姉敏子は札幌市に居住し居らずして昭和二十年十二月十五日まで札幌郡江別町に居住し同所で物資の配給を受けて居たものであつて原告の母艶子が其長女敏子と行動を共にし同人の食糧を確保する為其転入手続を遅延せしめなければならぬ理由無く仮に原告の母艶子が原告主張の通り昭和二十年九月二十日頃から東旭川村に来て居つたとしても同人は東旭川村に居住する意思が無かつた為其転入手続をしなかつたものであるから被告が其転入手続未了の為原告の住所が東旭川村に無かつたものとして本件土地に付買収計画を樹てたのは正当であると抗争した。(立証省略)

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